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クロノメーターは品質・精度の物差しだが「認定されていない=悪い」ではない
スイス公認のクロノメーター検定協会(COSC(通称コスク):ControleOfficialSuissedesChronometres)が行っているクロノメーターですが、昔はイギリスのキュー・テディントン、スイスのジュネーヴ、ヌーシャテルといった天文台の中に検定所を設けていました。かつては検査というよりも、時計の精度を競うコンクール的な意味合いが強かったからです。クロノメーターの規格が世界標準として定着したのは20世紀初頭でした。
クロノメーターの定義「異なる気温と姿勢のもとで、正確に動くように調整され、公式の計時証明を受けた高性能時計」も決まりました。現在は国際規格であるISO3159になっています。クロノメーター検定協会は、ル・ロックル、ビエンヌ、ジュネーヴというスイスの三都市に組織を置いています。
クロノメーター検定協会は認定申請をするすべての時計のムーブメントを全量検査しています。申請されたムーブメントは、姿勢や温度の違う条件下で厳格な検査が行われます。その結果、基準を満たしているムーブメントについて、クロノメーターとして認定されます。また、証明書がムーブメント1つにつき1枚ずつ発行されます。
同じ時計メーカーがいくつかのムーブメントをクロノメーターの検査に申請したとしても、すべてのムーブメントが基準をクリアするとは限りません。また、同種類のムーブメントでも認定されるものとそうでないものがあります。「A社のBムーブメントが1つ基準を満たしたので、Bムーブメントは全部クロノメーター認定」とはならないのです。1個体ずつ検査をするためです。そのため、クロノメーターの認定を受けている時計は、個体差の心配をしなくていいのです。
日本の時計メーカーもクロノメーターの基準を参考にして、独自規定を設けているところは少なくありません。セイコーはクロノメーター基準より厳しい6つの姿勢で17日間の精度を求めるGS規格を設けました。そしてこの厳格な規定をクリアした時計が市場でも高く評価されているグランドセイコーです。そして、グランドセイコースペシャルの発売後、独自規定の基準レベルをさらに高いものへと変更しています。
セイコーと同じく国内時計メーカーで人気のシチズンも同様です。クロノメーター規定に匹敵するような社内基準を設け、合格したものを発売しています。それが、1962年に発売されたシチズン・クロノメーターです。グランドセイコースペシャルやシチズン・クロノメーターのように、厳格な独自基準をクリアした商品はたくさんあります。
1960年代には日本に国際クロノメーター管理委員会が発足されました。しかし、管理委員会が発足された頃にはシチズンはクロノメーターの生産をやめており、セイコーはクォーツの開発に力を入れていました。クロノメーターの検査には、毎年多くの時計が申請しています。しかし、日本産のクォーツが世界中で大流行した1970年代後半に申請する時計は、今より相当少なったようです。クォーツクライシスと呼ばれるほど、クォーツが市場を圧巻していましたので無理もありません。
「クロノメーターに認定されている=良い時計」「認定されていない=悪い時計」というわけでは決してありませんが、「クロノメーター=良い時計」と考える人は多いです。「クロノメーター認定の時計でないと安心できない!」という方もいらっしゃいます。確かにクロノメーターは時計の品質や精度を計る客観的な物差しになります。クロノメーターに認定されていれば、一定以上の品質や精度は担保されるでしょう。
しかし、クロノメーターの申請を受けるかどうかはメーカーの考え方にもよるので、クロノメーターに認定されていないからといってマイナスの印象を持つのは間違いです。クロノメーターに認定されていた方が安心できるのはわかりますが、認定されていない時計の中にも魅力的な商品がたくさんあることは覚えておきましょう。
ロービートの時計とハイビートの時計の違い
腕時計の振動数についても見ていきましょう。振動数はクロノグラフなどの時計には欠かせない要素であり、どれだけ振動数があるかで時計の性能も変わってきます。振動数はテンプが振動する数のことです。振動数が少ない場合はロービート、振動数が多い場合はハイビートと言います。
多い少ないの基準となるのが、28,800振動です。現在の機械式時計のムーブメントは28,800振動が主流であるため、この数値より少ない場合はロービート、多い場合はハイビートと言われることが多いです。ちなみに、28,800振動は1時間で28,800回振動することなので1秒間の振動数は8回です。毎時18,000振動だと1秒間に5振動、毎時36,000振動だと1秒で10振動となります。1秒間に8振動のことを8ビートと言うこともあります。
機械式腕時計のシースルーバックであれば、バランスホイールの振れ方を簡単に見ることができます。シースルーバックの時計を持っていない場合は、時計店で見せてもらうこともできます。また、安いシースルーバックの時計だと1万円〜2万円程度で購入することも可能です。時計が動いている限り、バランスホイールは左右方向へ振れ続けます。そして、バランスホイールの振れ方の速さは、ムーブメントによって異なります。
ロービートの時計とハイビートの時計のメリット・デメリット
ロービートとハイビートで、それぞれメリット・デメリットがあります。ロービートはハイビートに比べて振動数が少ないので、部品の摩耗を防ぐことができます。摩耗を防ぐことでムーブメントの寿命を延ばすことが可能です。また、ハイビートよりも耐久性が高く故障しにくい点がメリットです。ただし、調整に高度な技術が必要になり手間がかかることがデメリットになります。
一方ハイビートは、安定したビートを刻めるので精度が高い点がメリットです。ただし、振動スピードが速く回数が多いので部品が摩耗しやすいデメリットがあります。このように、振動数が下がると高い精度を実現するのが難しくなり、振動数が上がると精度を向上しやすいと言われています。しかし技術の進捗により、ロービートながら精度が高いムーブメントやハイビートながら耐久性が高く丈夫なムーブメントも出てきています。
クロノグラフの時計の場合は、ビート数を別の角度から見ることができます。ストップウォッチ機能があるクロノグラフのビート数は、どれだけ細かくタイムを計測できるのかという意味を持ちます。たとえば、1秒間に5振動(毎時18,000振動)の5ビートであれば、計測の最小単位が1/5秒(0.2秒)になります。もし、1秒間に8振動(毎時28,800振動)の8ビートなら1/8秒(0.125秒)です。つまり、ビートの数字が多くなるほどクロノグラフで計測できる時間が細かくなるということです。
一般的なクロノグラフのムーブメントには、6ビートから8ビートが使われています。ゼニスのエル・プリメロなど10ビートのクロノグラフムーブメントの時計もあります。10ビートのクロノグラフは6ビートや8ビートのクロノグラフよりも細かい時間まで計測が可能です。ゼニスでは、ムーブメントだけでなくクロノグラフの商品名もエル・プリメロとしています。ムーブメントと商品名が一緒であることは、時計業界では珍しいことです。
それだけゼニスはムーブメントと商品に誇りを持っているということです。ゼニスはエル・プリメロの提供を限られたブランドにだけ行っています。たとえば、タグホイヤーはエル・プリメロをカスタマイズしたムーブメント「キャリバー36」を搭載したモデルをリリースしています。毎時36,000振動ということもあり名前に「36」がついています。
通常、ムーブメントを外部調達した場合は、その詳細が表に出ることはほとんどありません。しかしエル・プリメロについては、唯一無二のビート数のムーブメントだったということもあり、表に出ています。毎時36,00振動のムーブメントの凄さは素人目で見てもわかります。ロービートムーブメントのクロノグラフ針は、チチチと細かい秒針の動きが見られますが、エル・プリメロのクロノグラフ針は滑るようにスムーズな動きを見せます。
ロービートの時計でおすすめのオメガスピードマスター
「ビート数は多い方がいいの?」と疑問を持つ方もいるでしょう。「ビート数が多い=良い」「少ない=悪い」ということはありませんし、一概には決められません。たとえばハイビートのムーブメントは、動きが速いので機械への負担が大きくなります。
多くの人から支持される人気時計のオメガスピードマスターは、ロービートのムーブメントです。かつては5ビート、モデルチェンジ後は6ビートを採用しています。ロービートですが安定性や精度などバランスの良さと品質を実現しています。ロレックスのデイトナは、かつてはゼニスのエル・プリメロのムーブメントを使用していましたが、よりロービートの独自仕様に変更をしています。
このように時計ブランドによってハイビートかロービートか異なります。ハイビートにはハイビートの良さがあり、ロービートにはロービートの良さがあるのです。ミネルバのキャリバー48はロービートのムーブメントとして名品です。1940年代から作り続けられた歴史のあるムーブメントで、毎時18,000振動の5ビートになります。
バランスホイールがゆったりと振動する姿は優雅で、じっくりと見ていたいものです。ロービートのムーブメントとして有名なミネルバですが、ハイビートムーブメントをもつくるなど、垣根なく時計づくりをしています。
ここで紹介したようにビート数は多ければ多いほど良いというものではありません。ロービートもハイビートもどちらにも良さがあることを覚えておきましょう。
フードロワイヤント
クロノグラフの中には、1秒間で1回転する針を持つモデルがあります。1秒間で1回転するので秒以下の読み取りが簡単です。これはフードロワイヤントやインディペンデント・ジャンピング・セコンズと言われています。フードロワイヤントも複雑時計です。ただし、フードロワイヤントを製品化しているブランドは数少ないです。1791年に創業したスイス時計の名門ジラール・ペルゴなど、本当に限られます。
しかし商品が少ないからこそ、熱狂的ファンが生まれるものです。ジラール・ペルゴのフードロワイヤントは、ムーブメントに8ビートを採用しています。1/8秒(0.125秒)の細かい単位なので、見た目もスムーズです。細かいステップを重ねて回転する様子は、何度見ても飽きません。
IWCは耐磁性能が高い時計なのか?
腕時計の中には潜水艦乗りのためのモデルもあります。潜水艦乗りは防水性能が高いダイバーズウォッチを使っているのでは?と、思う方も多いでしょう。しかし潜水艦乗りがつける腕時計は一般的なダイバーズウォッチではありません。ダイバーズウォッチとは、ダイビング向けの時計です。国際標準化機構(ISO)や日本工業規格(JIS)にもダイバーズウォッチの規格があり、厳格な基準が設けられています。
ダイバーズウォッチの基本機能は防水性能です。「ダイバーズウォッチ=防水●●m」と明確に決まっているわけではありませんが、最低でも300〜500mの防水性能を持つダイバーズウォッチがたくさん発売されています。ロレックスのディープシーは防水3,900mです。
また、防水性能だけでなく逆回転防止ベゼルもダイバーズウォッチの代表的機能です。逆回転防止ベゼルとは、その名の通り逆回転しないベゼルのことです。反時計回りにのみ回転するようになっています。逆回転を防止している理由は、潜水時間を測定する際に誤差が生じては命にかかわるからです。
モデルによってはヘリウムガスエスケープバルブが備わっています。ヘリウムガスエスケープバルブとは、深海から浮上したときに、時計内部に侵入したヘリウムがケースを破損するのを防ぐための機能です。内部に入ったヘリウムを逃します。他にも、ウェットスーツの上からでも着脱がしやすいエクステンションバックルなどもダイバーズウォッチに見られる特徴の1つです。
話を戻しますが、潜水乗りに求められる機能は防水性能よりも耐磁性能です。なぜなら、潜水艦は強い磁力を発生しているからです。しかし、腕時計の大敵は磁力になります。磁気が時計の精度を狂わせるからです。ムーブメントの部品は金属製なので、磁気を浴びると磁化してしまい、精度の悪化や止まりが生じてしまいます。また、磁気の影響を受けるのは機械式時計だけではありません。クォーツ時計は磁石の性質を利用した装置ステップモーターがあるので、強い磁気を受けると正常に動かなくなってしまいます。
機械式時計もクォーツ時計も磁気によって影響を受けますので、一般的な時計では、強い磁気がある潜水艦の中では正常に使える保証がありません。時計が正常に作動しないようであれば、潜水艦の運航にも影響が出てしまいます。そのため、潜水艦で使う腕時計には高い耐磁性能が求められます。
耐磁性能に優れた腕時計として、IWCのインヂュニアなどがあります。インヂュニアコレクションは時計の大敵である磁力に強いことが特徴です。パイロットウォッチのマーク11をベースに開発されています。初代のインヂュニアは耐磁性が80,000A/mで軟鉄製のインナーケースでムーブメントを覆っています。防水性能も100m以上あるなど、潜水乗りでも安心できる1本です。
耐磁性能が優れた時計はIWCのインヂュニアだけではありません。たとえば、オメガのマスタークロノメーター認定機やグランドセイコーの強化耐磁モデル、ロレックスのミルガウス、オーデマ・ピゲのSinnなども耐磁性能が高いモデルです。
近年は耐磁性能が高いモデルが登場していますが、1950年代にインヂュニアを誕生させたIWCはパイオニアとも言えます。ただし、IWCのすべてのモデルが耐磁性能に優れているわけではないので注意してください。インヂュニアを持っている方は、このような歴史を知っておけば、さらに愛着が湧くはずです。ちなみにインヂュニアは、潜水艦に関する有名な漫画でも登場していました。それだけ潜水艦乗りに普及している時計ということです。インヂュニアの現行モデルはIWCとしては珍しい本格的なスポーツラインになっています。防水性能が優れているだけでなく堅牢性が高く、永久カレンダーやクロノグラフも備えたモデルです。
IWCのインヂュニアの歴代モデルは以下のような特徴があります。
- インヂュニア666:1955年〜1975年頃まで製造、ケースサイズ36mm、耐磁性能80,000A/m、ラウンドフォルムでオーソドックスなタイプ。
- インヂュニアSL:1976年〜1983年頃まで製造、ケースサイズ40mm、耐磁性能80,000A/m、パテックフィリップのノーチラスやオーデマピゲのロイヤルオークのデザイナージェラルド・ジェンタが手掛けたシンプルデザイン。
- 1983年〜:ETAベースのムーブメントを使ったインヂュニアSL Ref.3505を発売し、1985年にはその後継モデルとなる3506が登場しました。ケースサイズはこれまでのインヂュニアよりコンパクトな34mmです。そして、1989年にはインヂュニアSLが500,000A/m以上の耐磁性能を有して登場しました。ケースサイズは34mmで1992年頃まで製造されています。1990年前後に登場したロレックスのミルガウスが80,000A/mで、ヴァシュロンコンスタンタンのオーバーシーズが25,000A/mなので、いかにインヂュニアの耐磁性能が優れているかがわかります。
インヂュニアの500,000A/m以上の耐磁性能はそれまでの軟鉄製インナーケースを使用していません。ムーブメントのゼンマイにニオブ‐ジルコニウム合金を使用することで耐磁性能を保っています。ニオブ‐ジルコニウム合金はロレックスのミルガウスにも使われている素材です。この素材を使うことでムーブメントに耐磁性能を持たせ、磁気帯びを防ぎます。
しかし1993年には、再び軟鉄製のインナーケースを使ったモデルを発表しています。クロノメーターの認定を受けているモデルです。IWCは独自の規格があるのでクロノメーターを取得することは多くありません。そのため、クロノメーター認定モデルということで希少性が高まりました。ただし、製造されたのは2001年まででインヂュニアはIWCのラインナップから姿を消すことになります。
2005年には自社開発のムーブメントによりインヂュニアIW322701として復活をします。インヂュニアIW322701は、これまでのモデルよりも大きな42.5mmにサイズアップされました。また、デザインについても「12」と「6」がアラビア数字になり、スポーティーな印象になっています。2009年頃まで製造されたモデルです。そして、2007年にはインヂュニアIW322801を発表しています。インヂュニアIW322801は、シースルーバック仕様です。シースルーバックになったことでデザイン性が高まり、これまでとは違った層がインヂュニアのファンになりました。
しかし、シースルーバックになったことで、これまで特徴となっていた超耐磁が失われることになりました。IW322801が登場して以降もインヂュニアにシースルーバックが採用されています。メルセデスベンツとのコラボレーションモデルやクロノグラフ搭載モデルなども登場します。インヂュニアのイメージが、これまでのように耐磁性能が優れた時計としてではなく、スポーティーイメージに変わっていくのはこの頃からです。メルセデスベンツのAMGとのコラボモデル「インヂュニアAMGベンツ」もこれまでのインヂュニアとは違ったスポーティーなデザインです。新素材のケースやクロノグラフを採用しています。
そして2017年にはインヂュニアIW357002が登場します。インヂュニアIW357002はケースサイズが40mm、耐磁性能40,000A/mで、インヂュニアSLのジェンタデザインを継承しています。そのため、それまでのスポーティーモデルとは違ったクラシックデザインで、初代モデルに似ています。耐磁性能は他のモデルより低いですが、他ブランドの時計と比べると十分な仕様です。
インヂュニアIW357002と同時にインヂュニアクロノグラフも発売されています。こちらはケースサイズ42mmでスポーティーなデザインに仕上がっています。このように潜水艦乗りにも人気がある超耐磁性能インヂュニアは、一定水準の耐磁性能を維持しながらも、スポーティーなモデルなどを発売しています。今やIWCの中核を担う存在にまで成長しています。
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職場環境によって求められる時計の性能
耐磁性能が高い腕時計は、医療関係者が愛用していることも多いです。MRIなどの検査機器が強力な磁気を発生させるからです。潜水艦乗りと同じように、通常の時計をつけていたら精度が狂ったり止まる可能性があります。また、プログラマーなど長時間パソコン作業をする人が耐磁性能にこだわって時計選びをするケースも増えているようです。
機械式時計もクォーツ時計も、磁気は時計の大敵です。だからこそIWCのインヂュニアのような耐磁性能が優れた時計は人気があります。もし、自宅にインヂュニアのように耐磁性能が高い時計が眠っている場合は、時計買取専門店に査定依頼を検討してみてはいかがでしょうか。モデルによっては高値での時計買取が期待できます。